概要
建物は地盤の上に建ちます。地盤が軟弱であれば、建物が沈下したり傾いたりするリスクがあります。2000年の建築基準法改正(告示1113号)により、小規模建築物でも事実上、地盤調査が必須となりました※1。
この記事では、地盤調査の方法、結果の見方、地盤改良工事の種類と費用の目安を整理します。土地探しの段階から地盤のリスクを意識しておくことで、予算オーバーを防ぐことができます。
なぜ地盤調査が必要か
法律上の要請
建築基準法施行令第38条および平成12年建設省告示第1113号により、建築物の基礎は地盤の状況に応じた構造としなければなりません※1。具体的には、地盤の許容応力度(地盤がどれだけの荷重に耐えられるか)を確認し、それに見合った基礎形式を選定する必要があります。
実務上の必要性
- 不同沈下の防止 — 地盤の支持力が不均一だと、建物の一部だけが沈む「不同沈下」が発生し、壁にひびが入る、ドアが閉まらなくなるなどの問題が起こります
- 地盤保証を受けるため — 多くの住宅会社が加入する地盤保証制度では、所定の地盤調査が保証の前提条件となっています
- 適切な基礎設計のため — 地盤の強さによって、ベタ基礎で十分なのか、地盤改良が必要なのかが変わります
地盤調査のタイミング
地盤調査は土地の契約後、建物の設計段階で行うのが一般的です。土地の購入前に調査することは、売主の許可が得られれば可能ですが、費用は買主負担となります。
ただし、ハザードマップや地形情報から事前にある程度のリスクを推定することはできますが、隣の土地では不要だった地盤改良が自分の土地では必要だった、というケースも多く、確実な予測方法はありません。
調査方法
住宅の地盤調査で使われる主な方法は3つあります。
SWS試験(スクリューウエイト貫入試験)
旧称「スウェーデン式サウンディング試験」。戸建て住宅で最も広く使われている調査方法です※2。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 方法 | 先端がスクリュー状のロッドを地面に差し込み、荷重と回転数から地盤の強さを測定 |
| 調査深度 | 通常10m程度まで |
| 調査箇所 | 建物の四隅と中央の計5ポイントが標準 |
| 所要時間 | 半日〜1日 |
| 費用 | 5〜10万円程度※4 |
| メリット | 安価・短時間・住宅用としての実績が豊富 |
| デメリット | 土質の判別が不正確。礫(れき)層で貫入不能になることがある |
ボーリング調査(標準貫入試験)
マンションやビルなどの大型建築物で一般的に用いられる調査方法です。戸建て住宅でも、SWS試験で判断がつかない場合や、3階建ての場合に実施されることがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 方法 | ボーリングマシンで地中を掘削し、一定間隔でサンプラーを打ち込んで地盤の強さ(N値)を測定 |
| 調査深度 | 通常15〜30m程度 |
| 調査箇所 | 1〜2ポイント |
| 所要時間 | 1〜3日 |
| 費用 | 20〜30万円程度※4 |
| メリット | 土質サンプルが採取できる。N値が直接測定できる。信頼性が高い |
| デメリット | 費用が高い。大型機械が必要 |
表面波探査法
地表面に振動を与え、その伝わり方から地盤の硬さを推定する方法です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 方法 | 地表に起振機と受振器を設置し、表面波の伝播速度から地盤の剛性を推定 |
| 調査深度 | 通常10m程度まで |
| 所要時間 | 半日程度 |
| 費用 | 5〜10万円程度※4 |
| メリット | 非破壊検査のため地盤を傷つけない。面的な地盤評価が可能 |
| デメリット | SWS試験に比べて実績が少ない。交通振動等の影響を受けやすい |
調査方法の比較
| SWS試験 | ボーリング調査 | 表面波探査 | |
|---|---|---|---|
| 費用 | 5〜10万円 | 20〜30万円 | 5〜10万円 |
| 精度 | 中 | 高 | 中 |
| 土質判別 | 不正確 | 正確 | 不可 |
| 戸建て住宅での利用頻度 | 非常に高い | 低い | 低い |
戸建て住宅ではSWS試験が標準です。多くの建築会社がSWS試験を基に地盤判定を行います。
調査結果の見方
SWS試験の結果では、以下の数値が重要です。
換算N値
SWS試験の測定データから換算される値で、地盤の強さの指標です。
| 換算N値 | 地盤の状態 | 目安 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 非常に軟弱 | 地盤改良がほぼ必要 |
| 3〜4 | 軟弱 | 地盤改良が必要になることが多い |
| 5以上 | 普通〜良好 | ベタ基礎で対応できることが多い |
| 10以上 | 良好 | 布基礎でも対応可能 |
自沈層の有無
SWS試験で、ロッドを回転させなくても自重だけで沈んでしまう層を「自沈層」と呼びます。自沈層が浅い位置に厚く存在する場合は、地盤改良が必要になる可能性が高いです。
地盤のばらつき
5ポイントの調査結果で地盤の強さに大きな差がある場合、不同沈下のリスクがあります。建物の一部だけが沈む可能性があるため、改良工事で均一化する必要があります。
地盤改良工事の種類
調査の結果、地盤が軟弱と判断された場合は地盤改良工事が必要です。工法は主に3種類あり、地盤の状況によって使い分けます。
表層改良工法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 概要 | 軟弱な地盤の表層部分(深さ1〜2m程度)をセメント系固化材と混合して固める |
| 適用条件 | 軟弱層が地表から2m程度以内の場合 |
| 費用目安 | 30〜50万円程度(延べ床面積30坪の場合)※5 |
| 工期 | 1〜2日 |
柱状改良工法(湿式)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 概要 | セメントミルクを注入しながら地中を攪拌し、直径50〜60cm程度の柱状の改良体を作る |
| 適用条件 | 軟弱層が地表から2〜8m程度の場合 |
| 費用目安 | 50〜100万円程度(延べ床面積30坪、改良深度5m程度の場合)※5 |
| 工期 | 1〜3日 |
最も採用実績の多い工法です。ただし、腐植土が多い地盤ではセメントが固まりにくく、適用できないことがあります。
鋼管杭工法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 概要 | 直径10〜15cm程度の鋼管杭を支持層(固い地盤)まで打ち込む |
| 適用条件 | 軟弱層が8m以上で深い場合。支持層が明確に存在する場合 |
| 費用目安 | 100〜200万円程度(延べ床面積30坪、杭長8m程度の場合)※5 |
| 工期 | 1〜2日 |
費用は高いですが、支持層に直接杭を到達させるため信頼性が高い工法です。
工法の選定フロー
軟弱層の深さは?
├─ 2m以内 → 表層改良(30〜50万円※5)
├─ 2〜8m → 柱状改良(50〜100万円※5)
└─ 8m以上 → 鋼管杭(100〜200万円※5)
※費用は目安です。土質、改良面積、改良深度によって変動します。
地盤保証制度
地盤保証とは、地盤調査・改良工事を行った住宅で不同沈下が発生した場合に、建物の修復費用を保証する制度です※6。住宅瑕疵担保責任保険(構造・防水の10年保証)とは別の、地盤に特化した保証制度です。
仕組み
地盤保証は、建築会社が地盤保証会社に加入し、保証会社の基準に沿った地盤調査・改良工事を実施することで、保証が適用される仕組みです。保証料は建築会社が負担するのが一般的で、施主の直接的な費用負担はないことが多いです。
主な地盤保証会社には、ジャパンホームシールド(JHS)※6、住宅保証機構※7、ハウスワランティなどがあります。
| 項目 | 一般的な内容 |
|---|---|
| 保証期間 | 10〜20年※6※7 |
| 保証金額 | 5,000万〜1億円(保証会社により異なる)※6※7 |
| 保証の対象 | 不同沈下に起因する建物の損害。建物の水平修復費用、地盤補強費用など |
| 保証の条件 | 保証会社が認定する調査方法・改良工法で施工されていること |
注意点
- 保証は建物に対するもの — 土地そのものの地盤沈下は対象外の場合があります
- 保証会社の信頼性 — 保証期間中に保証会社が倒産すると保証が受けられなくなるリスクがあります
- 免責事項 — 地震・液状化による被害は免責とされていることが多いです
- 建築会社に確認する — どの保証会社の制度に加入しているか、保証期間・金額を契約前に確認しましょう
土地購入前にできること
地盤調査は通常、土地購入後に実施しますが、事前にリスクを推定する方法があります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 地形を確認する | 台地・丘陵地は比較的良好。低地・谷底平野・埋立地は軟弱な傾向 |
| 古地図を調べる | 旧河道(昔の川の跡)や旧水田は地盤が軟弱な可能性が高い。「今昔マップ on the web」※8で明治期以降の地図と現在の地図を重ねて確認できる |
| 地盤情報を公開サイトで確認する | 国土地盤情報検索サイト「KuniJiban」※3で近隣のボーリングデータを閲覧可能 |
| ハザードマップを確認する | 液状化マップがある地域では液状化リスクも把握できる |
| 地名に注意する | 「沼」「池」「田」「谷」「窪」など水に関連する地名は軟弱地盤の可能性を示唆することがある(ただし、地名だけで判断するのは危険です) |
これらの情報から「地盤改良が必要になる可能性が高い」と事前に把握できれば、資金計画に改良費用を織り込んでおくことができます。
出典
- 建築基準法施行令 第38条、平成12年建設省告示第1113号(地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法等) https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- JIS A 1221:2020 スクリューウエイト貫入試験方法(旧スウェーデン式サウンディング試験方法) https://www.jisc.go.jp/
- 国土地盤情報検索サイト「KuniJiban」(国立研究開発法人 防災科学技術研究所) https://www.kunijiban.pwri.go.jp/
- ジャパンホームシールド(JHS)「住まいの安心研究所」— 地盤調査の種類別費用相場 https://sumaken.j-shield.co.jp/buy-house/method-of-ground-survey-select-cost-agen.html
- アットホーム「地盤改良工事とは?知っておきたい方法と費用、必要なタイミング」— 工法別の坪単価と延べ床面積30坪での費用目安 https://www.athome.co.jp/contents/disasterprevention/checkpoints/soilstabilization/
- ジャパンホームシールド(JHS)「地盤保証制度とは?」— 地盤保証の仕組み・保証期間・保証金額(最大5,000万円)の解説 https://sumaken.j-shield.co.jp/buy-house/ground_guarantee.html
- 住宅保証機構「まもりすまい地盤保証制度」— 保証期間20年・保証金額1億円。登録地盤会社による調査・改良が条件 https://www.mamoris.jp/jiban/
- 「今昔マップ on the web」(埼玉大学 谷謙二研究室)— 明治期以降の新旧地形図を現在の地図と重ねて閲覧できるWebサービス https://ktgis.net/kjmapw/
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