概要

注文住宅の建築は、建築主(施主)と建築会社の間で「工事請負契約」を結ぶことで正式に始まります。この契約は数千万円規模の取引であり、一度締結すると簡単には解除できません。

住宅業界では「仮契約」「申込金」といった名目で、正式な検討が十分でない段階での契約を促されることがあります。しかし、法律上「仮契約」という概念はなく、署名・押印すればそれは本契約です※1。

この記事では、工事請負契約の内容、確認すべき項目、追加費用が発生しやすいポイント、そして解約の条件について解説します。

工事請負契約とは

工事請負契約は、民法第632条に規定される「請負契約」の一種です※1。請負人(建築会社)が仕事の完成を約束し、注文者(建築主)がその対価を支払うことを約束する契約です。

建設業法第19条では、建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して一定の事項を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付しなければならないと定めています※2。

契約書に含まれるべき書類

工事請負契約は、以下の書類で構成されます。

書類内容
工事請負契約書契約の基本事項(工事名、工期、金額、支払い条件)
工事請負契約約款契約の詳細な取り決め(権利義務、紛争解決方法など)
設計図書(図面一式)平面図、立面図、断面図、矩計図、構造図、設備図など
仕様書使用する材料・設備の品番・グレードの一覧
見積書(内訳明細書)工事費用の詳細な内訳
工程表着工から完成までのスケジュール

重要: 「図面と仕様書は後から作成します」と言われたら、絶対に契約しないでください。何を建てるのか(図面)、どんな材料で建てるのか(仕様書)が確定していない状態で金額に合意することはできません。

ただし、住宅ローンの融資契約に工事請負契約書が必要で、間取り検討の時間が十分に取れない場合はやむを得ないこともあります。その場合は、現時点の図面・仕様書は暫定であり後から変更する前提であることを、必ずメール等の文書で証跡を残しましょう。

契約書の記載事項

建設業法第19条※2で定められている記載事項は以下の通りです。

必須記載事項

  1. 工事内容 — 建築する建物の概要
  2. 請負代金の額 — 消費税を含む総額
  3. 工事着手の時期および工事完成の時期 — 着工日と完成予定日
  4. 請負代金の支払い時期および方法 — 支払いのタイミングと金額
  5. 工事の施工により第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担 — 近隣への損害対応
  6. 天災その他不可抗力による損害の負担 — 地震・台風等での損害の取り扱い
  7. 価格等の変動・変更に基づく請負代金の額や工事内容の変更 — 資材高騰時の対応
  8. 工事の変更・中止の場合の損害負担・費用精算 — 設計変更時の取り決め
  9. 紛争の解決方法 — 訴訟または建設工事紛争審査会※3

支払い条件の一般的なパターン

注文住宅の支払いは、一括ではなく分割で行うのが一般的です。

パターン契約時着工時上棟時完成時
4分割型10%30%30%30%
3分割型30〜40%30〜40%30%
2分割型50〜60%40〜50%

建築主にとっては、完成時の支払い比率が高いほうが有利です。建物が完成する前に全額を支払ってしまうと、万が一施工会社が倒産した場合のリスクが大きくなります。

着工時に60%、70%もの支払いを求められる場合、その業者が資金繰りに問題を抱えている可能性もあります。建設業許可の閲覧制度を利用して財務諸表を確認することも検討してください。

着工後に業者が倒産した場合

着工後に業者が倒産した場合、支払い済みの金額が返還される見込みはほぼありません。倒産した企業には工事途中の建物を撤去する義務も返金する義務も実質的に果たす能力がなく、残った予算内で工事を引き継ぐ業者を施主自ら探す必要があります。しかし、他社の設計・途中施工を引き受ける業者を見つけるのは容易ではありません。

住宅完成保証制度

こうした倒産リスクに備える仕組みとして、住宅完成保証制度があります※6。

項目内容
運営住宅保証機構、住宅あんしん保証、日本住宅保証検査機構(JIO)等の保証機関
対象保証機関に登録された建設業者が施工する新築住宅
保証内容施工業者の倒産時に、代替業者による工事の引継ぎを保証。前払い金と工事の出来高の差額(過払い金)を保証機関が補填
費用建築主の負担はなし(登録業者が保証機関に保証料を支払う)

制度のポイント:

  • 保証機関があらかじめ代替業者(引継ぎ業者)を手配するため、施主自身で業者を探す負担がなくなる
  • 前払い金のうち、工事出来高を超えた分(過払い金)が補填されるため、金銭的な損失も軽減される
  • 加入は任意であり、すべての建設業者が登録しているわけではない

登録要件が財務健全性のフィルターになる: 完成保証制度への登録には、保証機関による財務審査を通過する必要があります。住宅保証機構の「制度参加の手引き」※7によると、登録要件には以下が含まれます。

  • 債務超過でないこと(直近の貸借対照表で確認)
  • 税金の滞納がないこと
  • 過去に手形の不渡り・銀行取引停止処分がないこと
  • 営業実績が3年以上あり、元請の新築戸建て住宅の完工実績があること
  • 審査によっては民間の信用調査機関を利用する場合がある

さらに、登録の有効期間は1年間で、毎年最新の決算書類を提出して継続審査を受ける必要があります。つまり「現在登録されている」こと自体が、直近の財務状況が一定の基準を満たしていることの裏付けになります。

ただし、具体的な審査基準の数値(自己資本比率の閾値等)は非開示です。また、制度の対象は中小企業(資本金3億円以下または従業員300人以下)に限られるため、大手ハウスメーカーはそもそも対象外です。

確認方法: 契約前に「住宅完成保証制度に加入していますか」と直接聞くのが確実です。加入していない場合でも、それだけで避けるべきとは限りませんが、支払い条件(前払いの比率を抑える)で自衛することが重要になります。

約款の重要条項

契約約款は細かい文字で何ページにもわたりますが、以下の条項は必ず確認してください。

1. 遅延損害金

工事が契約で定めた期日までに完成しなかった場合に、建築会社が建築主に支払う損害金です。

  • 民間(旧四会)連合協定の約款では、遅延日数に応じて請負代金に対する年率で計算されます
  • 一般的な利率は年14.6%(遅延日数で日割り計算)
  • 建築会社独自の約款では、遅延損害金の条項が削除されている、または利率が低く設定されている場合があるため注意が必要です

2. 契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)

完成した建物が契約の内容に適合しない場合(欠陥がある場合)の責任です。2020年4月の民法改正により、「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に名称と内容が変更されました※1。

項目内容
対象構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分
期間引渡しから10年間(住宅の品質確保の促進等に関する法律)※4
建築主の権利修補請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除

注意: 10年間の責任は法律で定められた最低限の義務であり、約款で短縮することはできません※4。ただし、構造・防水以外の部分(内装、設備など)については、約款で独自の期間が設定されていることがあります。

3. 解除条件

工事請負契約の解除は、以下の場合に認められます。

建築主からの解除(民法第641条)※1:

民法上、建築主は工事が完成する前であればいつでも契約を解除できます。ただし、これによって建築会社に生じた損害を賠償しなければなりません。

解除のタイミング発生する費用の目安
契約直後(着工前)設計費用 + 契約手数料(数十万円〜100万円程度)
着工後〜上棟前既施工分の工事費 + 材料費 + 損害賠償
上棟後既施工分の工事費 + 材料費 + 損害賠償(数百万円〜)

建築会社の債務不履行による解除:

建築会社が正当な理由なく工事を中断した場合や、明らかな手抜き工事が発覚した場合は、建築主側から債務不履行を理由に解除でき、損害賠償を請求できます。

追加変更工事の取り決め

注文住宅では、契約後に設計変更や仕様変更が発生することが珍しくありません。追加変更工事は、トラブルの最も多い原因のひとつです。

追加費用が発生しやすいポイント

項目追加費用の目安発生しやすい理由
間取りの変更数十万〜数百万円壁の追加・撤去、構造の再計算が必要
設備のグレードアップ数万〜数百万円キッチン・バスの変更は高額になりやすい
コンセント・照明の追加1箇所あたり5,000〜15,000円配線計画の変更が必要
窓の追加・サイズ変更10〜30万円/箇所構造の再確認が必要な場合がある
外壁材の変更50〜200万円素材・工法が変わると大幅に変動
地盤改良(契約時に未確定だった場合)50〜200万円地盤調査結果による

追加変更工事に関する取り決めの確認事項

  1. 変更手続きの方法 — 口頭ではなく、書面(変更合意書)で取り交わす旨が明記されているか
  2. 見積もり提示の義務 — 変更前に必ず追加費用の見積もりを提示する旨が明記されているか
  3. 建築主の承諾なしに変更しない — 建築会社が独自の判断で仕様を変更しない旨が明記されているか
  4. サービス工事の扱い — 「サービスで対応します」と口頭で言われた内容も、書面に残すこと

契約前のチェックリスト

以下の項目を契約前に確認してください。

書類の確認

  • 設計図書(図面一式)が揃っているか
  • 仕様書に使用する材料・設備の品番が記載されているか
  • 見積書の内訳が明細レベルで提示されているか
  • 工程表(着工〜完成のスケジュール)が提示されているか
  • 「別途」「概算」の項目を確認し、概算金額を把握しているか

約款の確認

  • 遅延損害金の条項があるか、利率は適正か
  • 契約不適合責任の期間と内容を確認したか
  • 解除条件と違約金の金額を確認したか
  • 追加変更工事の手続き方法が明記されているか
  • 紛争解決方法が記載されているか

支払いの確認

  • 支払いのタイミングと金額が明記されているか
  • 分割支払いの場合、工程ごとに支払う金額は適切であるか
  • 住宅ローンの実行時期と整合性が取れているか
  • つなぎ融資が必要かどうか確認したか

その他

  • 建設業許可番号を確認したか
  • 住宅瑕疵担保責任保険に加入しているか※4
  • 建築確認申請は済んでいるか(または申請予定日を確認したか)
  • 近隣への挨拶の段取りを確認したか
  • 第三者の専門家(建築士など)に契約書のレビューを依頼したか

「仮契約」に注意

冒頭で述べた通り、法律上「仮契約」という概念はありません。「まずは仮契約だけでも」と促されても、署名・押印すればそれは本契約として法的効力を持ちます。

「仮契約」と呼ばれるものの実態は、以下のいずれかであることが多いです。

名目実態
仮契約正式な工事請負契約そのもの
申込金・手付金契約の意思表示。解約時に返還されない場合がある
設計契約設計業務のみの契約。工事の契約とは別

金銭を支払う前に、その金銭の性質(返還の可否、契約との関係)を必ず確認してください。不明な点があれば、署名前に持ち帰って専門家に相談することをおすすめします。

困ったときの相談先

契約に関してトラブルが発生した場合や、契約内容に不安がある場合は、以下の機関に相談できます。

相談先概要
住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル)※5国土交通大臣指定の相談窓口。電話相談無料
建設工事紛争審査会※3各都道府県に設置。あっせん・調停・仲裁を行う
弁護士(建築紛争に詳しい)契約書のレビュー、解約交渉の代理
建築士(第三者)技術的な観点から契約内容の妥当性を確認

依頼先の比較検討の段階で十分に比較・検討を行い、納得のいく内容で契約を結ぶことが、トラブル防止の最善策です。

出典

  1. 民法 第632条(請負)、第641条(注文者による契約の解除) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  2. 建設業法 第19条(建設工事の請負契約の内容) https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
  3. 建設業法 第25条(建設工事紛争審査会の設置) https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
  4. 住宅の品質確保の促進等に関する法律 第94条・第95条(瑕疵担保責任の特例) https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000081
  5. 公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター https://www.chord.or.jp/
  6. 住宅完成保証制度(国土交通省)— 住宅瑕疵担保責任保険制度とともに住宅取得者の保護を目的とした制度 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/index.html
  7. 住宅保証機構「住宅完成保証制度 制度参加の手引き」(2025年4月版)— 登録要件・審査基準を記載 https://www.mamoris.jp/kansei/